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神戸家庭裁判所 昭和54年(少)3544号 決定 1979年8月27日

少年 K・N(昭三八・一・一四生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

押収してある昭和五四年押第二四八号の一(折りたたみ式ナイフ)及び同号の五三(マッチ)を没取する。

理由

(非行事実)

別紙のとおり。

(法令の適用)

現住建造物等放火、刑法一〇八条

同未遂、同法一一二条、一〇八条

非現住建造物等放火、同法一〇九条一項

同未遂同法一一二条、一〇九条一項

建造物等以外放火同法一一〇条

器物損壊同法二六一条

窃盗同法二三五条

同未遂同法二四三条、二三五条

銃砲刀剣類所持等取締法違反銃砲刀剣類所持等取締法三二条三号、二二条

道路交通法違反、道路交通法一一八条一項一号、六四条

(処遇の理由)

一、本件各非行の態様

(一)、無免許運転の事実

少年は、昭和五三年一一月一〇日当裁判所で窃盗及び無免許運転の事実により保護的措置(不処分)を受けたのに、今回は、その措置の効果もなく、自動二輪免許試験を受験するための練習として、友人には自分は有免許者であると詐言のうえ、その者から第一種原付自転車を借り受け、約四キロメートル(自供走行距離)を無免許で運転したものである。

(二)、窃盗、同未遂の事実

少年は、単車を購入したかつたものの、家庭が貧困であつたため、その資力がなく、資金を得るために、しぶる友人を誘い、共犯者に見張りをさせて、自ら入口ドアーをこじ開けるなどして空巣を敢行し、金員を窃取していたものである。但し、賍金品については現金五〇〇円を除き、被害者に還付されている。

(三)、連続放火の事実

少年は、主謀者となつて行なつた上記空き巣が発覚、検挙され、また、昭和五四年六月二一日、学校から退学処分を受けたことに動揺し、就職など自分の将来を考えるうち絶望し、かつ、なぜ共犯者は停学になつただけなのに自己のみが退学処分になつたのかと考えるに至り、学校側は不衡平な処分をしたと恨みを抱きはじめ、自暴自棄的な心理状態も加わつて、ついには、自らの精神的仰圧を振り払うため、連続放火を行なつたものである。

(なお、かかる連続放火するに至つた犯行動機は、単純で短絡的発想ではあるが、少年時代における情緒不安定な時期の行動としては理解できないわけではなく、また、鑑別所における精神簡易鑑定においても少年には特に異常所見を認めない、というのであり、その他少年の非行当時の行動などの諸事情を考慮すれば、少年は本件非行の際に、心神喪失ないし耗弱状態になかつたことが認められるのみならず、少年に医療的措置も必要とは現在のところ認められない。)

なお、放火した四二件のうち、全焼家屋は一軒のみで、そのほとんどは、早期に発見消火活動がなされたために大事に至つていない。

以上の事実からうかがわれる如く、本件各非行は、いずれも密接に関連した一連の行為と評価することができ、比較的軽微な非行に端を発し、序々に追いつめられた少年の非行であつて、少年時代における情緒不安定な精神的側面が見受けられる。すなわち、単車に乗りたい、単車を買うお金が欲しい、そのために行なつた窃盗罪が発覚して学校から退学処分を受け、その処分に動揺し、自分の将来もこれで終りだと悲観し、自暴自棄的となつて、そのうつ憤を火付けという形で発散させ、社会を混乱に陥し入れて、その不満を晴らしている。なお、その罪の重さに対比して、少年は放火という犯罪が、いかに重大な犯罪であるかを認識しているとは認められない。

2 少年の資質等

当庁調査官○○○○作成の昭和五四年八月二四日作成の少年調査票及び神戸少年鑑別所作成の同日付鑑別結果通知書にある如く、少年は、小学生時代まで、経済的にはめぐまれなかつたものの、父母に育てられ、ほぼ問題もなく生長したが、小学校六年のときに父が死亡して以降、母の生きがいとなり、また、母に代つて読み書きするなどしていたため、母に頼られるとともに溺愛され、甘やかされていつた。少年は知能(I、Q=一二七)及び作業水準(極めて高い)等能力的には平均以上のものを有していたため、自己の能力に自信を持ち、経済的、家庭的な要因などを無視した現実遊離の高い要求水準を設定するので、それが達成されないとなるや、自暴自棄的となるだけでなく、他罰的となり、内省が進まず、自分を認めないものには反抗的で規範も無視する。

以上の事実のうち、本件各非行の罪質並びに連続放火によつて地域住民に与えた不安、その件数、結果及び少年の非行後の反省態度などの情状を考慮すれば、少年を検察官へ送致し、刑事処分をもつてのぞむのが相当であると考えられなくもない。

しかしながら、本件各非行を犯すに至つた動機をみるに、少年時代特有の心理状態から発した単純素朴な、かつ軽卒な行動にでた非行と考えられなくもないこと、過去に保護処分を受けたことがないこと及び年齢(一六歳)並びに内省の乏しさも、逮捕、勾留段階を経過して観護措置に至つたためか興奮状態からさめて、徐々に落ちつきを取戻し、少しずつではあるが自分の非行を見つめ直すといつた面も見せ始めていること及び少年には矯正教育を施せば立直れるだけの能力があることなどを総合判断すれば、少年に対しては保護処分をもつて望むのが妥当である。次に、保護処分について考えるに、上記の如き本件各非行の態様、保護者には少年に対する愛情は強いものがあるものの、指導能力に乏しく、母親を補助して少年に強力な影響力を及ぼしうる者が身近にいないこと、少年は本件各非行の重大性を深く認識していないし、内省も十分でないこと、日常生活に根ざした規律、規範意識を身につけさせる必要性が認められること及び少年の資質等を考慮すれば、この際強制施設へ収容し、統制された場所で情緒面の安定を与え、かつ、少年のものの考え方、価値観、倫理感などの内面に強力な働きかけを加える必要がある。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、没取につき少年法二四条の二第一項一号、二号、二項本文を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 板井良和)

別紙(一)

無免許運転及びナイフの不法所持

進行番号

罪名

犯行日時

犯行場所

犯罪行為

道路交通法違反

昭和五四年三月一八日午後一〇時三五分頃

神戸市○○区○○町×番×号先路上

公安委員会の運転免許を受けないで第一種原付自転車を運転

銃砲刀剣類所持等取締法違反

同年七月一二日午前〇時五五分ころ

同市○○区○○○町×丁目××番地先路上

業務その他正当な理由がないのに刃体の長さ約八センチメートルの折りたたみ式ナイフ一丁を携帯

別紙(二)

窃盗非行事実一覧表

進行番号

共犯者名

罪別

犯行日時

犯行場所

被害者氏名

被害金品

犯罪事実の概要

品目員数

金額

窃盗(空巣)

昭和五四年五月二九日午後三時ごろ

神戸市○○区○○○○×丁目×番××号○○○○

K子五三歳

現金五〇〇円

財布二個

一、一〇〇円

入口ドアーをドライバーでこじ開け、整理タンス、茶タンスの引き出しを物色し、茶ダンスの引き出しの中から、現金五〇〇円入りの財布二個を窃盗したものである。

BC

窃盗(自転車)

昭和五四年六月二日午後四時ごろ

西宮市○町×番×号○○○マンション自転車置場

L四八歳

自転車一台

五、〇〇〇円

○○○マンション自転車置場に無施錠で置いてあつたものを窃盗した。

右同

右同

右同

M子三七歳

右同

三、〇〇〇円

右同

窃盗(空巣)

同午後五時ごろ

芦屋市○○○○町××○○荘

N二四歳

現金

五〇〇円

入口ドアーをドライバーでこじ開ける洋服、棚の上の小物入れを物色し、小物入れの中から現金五〇〇円を窃取した。

窃盗(空巣)

同午後五時三〇分ごろ

神戸市○○区○○○町×丁目×番××号○○荘××号

O四三歳

現金

一六、六七五円

入口ドアーをドライバーてこじ開け洋服タンス、整理タンス、鏡台の引き出しを全部開けて物色し、鏡台の引き出しより現金一万六、六七五円を窃取した。

窃盗未遂

同午後五時三五分ごろ

同市○○区○○○町×丁目×番××号○○荘××号

P子三〇歳

なし

ドアーをドライバーでこじ開け洋服タンス、鏡台の引き出しを全部開けて、服、書類等を物色したが現金がなく目的をとげなかつた。

別紙(三)

連続放火非行事実一覧表

進行番号

罪名

犯行日時

犯行場所及び被害者

被害状況

使用器具

犯罪行為

媒介物

程度

被害額

現住建造物等放火

昭和五四年七月六日午前一時五分ごろ

神戸市○○区○○○×丁目×番×号食料品店Q(七九)

店舗前広告紙

ひさし裏天井板〇・四八平方米焼燬

約八〇、〇〇〇円

ライター

カップヌードル自動販売機の前方上部の同家ひさしの裏板と接着したピニール製波板につり下げていた広告用チラシに所携のライターで点火し放火し当該チラシを焼いたうえ、同家ひさしに燃え移らせ被害者及びその家族が現住している木造瓦葺二階建家屋のひさしの裏板を〇・四八平方メートル焼燬した

非現住建造物等放火未遂

同午前二時二七分ごろ

同市○○区○○町××丁目××番地の××○○○ストア花店R子(三九)

店舗日よけよしず

よしず・すだれビニールカンレイシヤの一部焼燬

約五〇、〇〇〇円

人の現住しないT(六六)所有に係るR子経営の軽量アルミ鉄骨平屋建店舗「○○フラワー○○」を焼燬する目的で、同店西側に張り巡らしてある日よけ用よしずに所携のライターで点火して放火したが、発見が早く、消防署員の消火活動により、当該よしず、すだれ及び屋蓋のビニール製カンレイシヤの一部を焼燬したほか隣接した○○○ストア○○店のビニール製テントの一部を延焼焼燬したにとどまり、その目的を遂げなかつた

同○○○ストア○○店店長S(三三)

日よけビニールテント六平方米焼燬

約五〇〇、〇〇〇円

一一

建造物等以外放火

同午前〇時三〇分ごろ

同市○○区○○町×丁目×番×號自動車修理工U(二一)

車庫内自動車シートカバー

自動車用シートカバの一部焼燬

約一、〇〇〇円

被疑少年は貧しくて自動車や単車が買えないうつ憤を晴らす目的で、上記日時場所において、玄関横車庫に駐車中の被害者所有に係る普通乗用車の車両カバーの左後部に所携のライターで占火して放火し、その一部を焼燬し、そのまま放置すればガソリンに引火するなど大火となり、被害者方及び近接した人家に延焼するおそれある危険な状態を発生させ公共の危険を生ぜしめた。

一六

器物損壊

同午前〇時四七分ごろ

同市○○区○○町×丁目×番××号無職V子(三七)

道路瑞の日よけビニールテント

ビニールテントの一部焼燬

約二〇、〇〇〇円

玄関横の被害者所有に係る日よけテントの南端前面の垂れ下がつた部分に所携のライターで点火して放火し、その一部を毀損した。

編略─進行番号2、3、5~10、12~15、17~42(現住建造物等放火一件、同未遂二三件、非現住建造物等放火一件、同未遂六件、建造物等以外放火四件、器物損壊三件─合計三八件)

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